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神戸地方裁判所 昭和27年(行)1号 判決

原告 多胡正夫

被告 平福町議会

一、主  文

被告が昭和二十七年一月十八日なした原告を除名する旨の議決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二六年四月二三日以来、被告議会の議員であるところ、被告議会は昭和二七年一月一八日の臨時議会において、(イ)原告が昭和二六年一二月一三日窃盗容疑で佐用警察署の取調べを受け竜野区検察庁に送致されたこと、(ロ)原告が議員であるに拘らず昭和二四年度分からの町税を納入せず昭和二七年一月一〇日に至り昭和二四年度分のみを納入したに過ぎないこと、右の事実により議会の品位を汚し、その運営に障害を与えたものとして地方自治法第一三四条第一三五条平福町議会会議規則第三八条第四〇条を適用して原告を除名するとの懲罰の議決をした。

然し乍ら、(イ)、(ロ)の如き事実は(夫れが事実であることは認めるが)、原告の全く私生活上の事項であつて、前記地方自治法及び議会規則所定の懲罰の事由に該当しないものであるから、これを理由として為した被告議会の除名の議決は明かに違法である。

仮りに、(イ)、(ロ)の如き事実を以て議会の体面を汚すものとして懲罰の事由となし得るとしても、原告が警察の取調を受けるに至つた昭和二六年一二月一三日当時、平福町議会会議規則(同年八月三日制定)第四〇条には除名の規定がなく、その後、同年一二月二四日に至つて初めて除名等の懲罰の種類の規定が設けられたのであるから、右事実を把えて懲罰の規定を適用し得ない筈である。蓋し地方自治法第一三四条には「懲罰に関し必要な事項は会議規則中にこれを定めなければならない」と規定されている以上、地方自治法第一三五条に懲罰の種類の規定があるからとて、規則なくしては除名の議決を為し得ないことは明かである。従つて、本件懲罰は右規則制定以前の懲罰の規定なき事実に対し、これを遡及適用した違法がある。

以上の通り、被告議会の右除名議決は違法であつて、所詮取消しを免れないものなること明かであるから本訴に及んだと述べ、被告の主張事実を否認した。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、訴の却下を求め、議会の議員に対する懲罰は議会の紀律を維持するための自律作用に属し、議会自体の決定に委ねらるべき自由裁量事項であつて、法律に特別の定めなき限り出訴は許されず、本訴は不適法であると述べ、本案につき、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告がその主張の日より被告議会の議員であつたこと、その主張の日、被告議会が原告を除名する旨の議決をしたこと、会議規則第四〇条第三項第四項(懲罰の種類等)が昭和二六年一二月二四日設けられたことは認めるが、その余の事実はこれを争う。右懲罰の対象となつた事由は原告主張の(イ)、(ロ)の事実のみによるのではない。被告議会の品位を傷付け、その権威を失墜するに至つた原告の次の如き言動(これがため遂に、原告が在職する限り議会運営の円滑を期し得ない状態となつた)があつたため、被告議会の紀律保持上己むを得ず懲罰に付したものである。

即ち、原告は

(一)  議会内において、議会の秩序を乱し、常に口論し、大声叱咜して議場を混乱に陥れ、又議事の進行を妨げる言動を為し

(二)  議員当選以来町税を怠納し、議員有志の勧告に拘らず納税の誠意を示さないばかりでなく「怠納は議員の身分に関係なし」と放言し、たえず町民の納税意慾阻害の挙に出で

(三)  固定資産再評価の一部に不当ありと一般町民に宣伝し、議員の肩書を利用して縦覧期間、告示期間経過後、勝手に税務係保管の公簿を取出して閲覧し、納税告知前、特定者のみにこれを内通し、又報酬を得て税額減額交渉の依頼を引き受け、或は税務の代弁を為し、

(四)  神姫バス平福停留所増設に関し、同社上郡営業所に至り何等の代表権限なくして町議会の議決による議員代表なりと欺罔して独断交渉し

(五)  町有山林管理人として議会の推薦により選任された下尾安治郎に不正ある如く虚構を吹聴して排斥し後任に自己の側近者を推し

(六)  鳥取県八頭郡智頭町の議員米井啓祐を訪ね議員の名刺を出しその肩書を利用してバス賃五〇〇円を借用したまゝこれを返済せず、

(七)  興国産業物産講と称する頼母子講を組織し、加入者よりの掛金を費消した結果金三〇、〇〇〇円の損失を与え、又各方面に多大の借財を重ね

(八)  昭和二六年八月六日頃詐欺横領容疑で取調を受けた外、同年一二月一三日窃盗容疑で佐用警察署に留置取調を受け、その後竜野区検察庁に送致され、昭和二七年一月七日起訴猶予となつた際議員有志より辞職勧告あり、辞職の意思を表明し乍ら、その後前言を飜し却つて辞職勧告した議員に対し悪口を放ち恥じようとしない。

而して、以上の言動は議場内に止まらず、その内外に亘つているが、議員の議場外の行動と云えども、その言動の如何によつては議会の品位及びその運営に至大の影響を与えるものであるから、地方自治法及び会議規則第三八条に所謂議会の品位を重んずるためには議場の内外を問はず以上の言動を以て懲罰の対象となし得るものと解すべきこと明かである。

更に又、昭和二六年一二月二四日平福町議会会議規則第四〇条第三項を以て設けられたのは地方自治法第一三五条所定の懲罰の種類に過ぎず、右規定なくとも従前の会議規則に懲罰に関する規定が存する以上懲罰事犯があれば議決し得ない理由はない。のみならず、仮りに、右会議規則第四〇条第三項が一二月二四日以前の事実につき適用できないとしても、本件懲罰の事由は前記の通りであつて、懲罰議決当時存続した事由によつて地方自治法及び会議規則にふれる事犯を認定適用したこと明かであり、原告主張の町税滞納の件は勿論、ことを窃盗容疑による捜査官憲の取調を受けたことに限定しても、同年一二月一三日留置取調を開始されたことのみを問題にしているのではなく、むしろ爾後の事態、殊に竜野区検察庁に送致され、昭和二七年一月七日起訴猶予となり、その後一月一八日までの言動を問題としているのであるから、全く遡及適用の問題はあり得ない。

以上いずれの点から云つても、本件懲罰の議決は適法であつて何等の違法はなく、原告の請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

被告は本案前の抗弁として、懲罰は議会内部の自律作用に属し出訴の対象にならないから本訴は不適法である旨主張する。

然し乍ら、成程懲罰は本来議会自体の紀律保持のための自律性に出ずるものではあるとしても、そのことから直ちに、懲罰事由の存否に関する判断自体までも、議会の自治的判断に委ぬべきものとは解すべきでない。而して議会は地方自治法及び会議規則に定める特定の事由ある場合に限り懲罰に付し得るものであるからその意味において懲罰が自由裁量行為でないことは明かである。それはあくまで公法上の権利関係に影響する一の処分として、そこに違法の問題が存する限り、もとより出訴の対象となり得るものであり、裁判所において、これが審判権を有することは当然である。従つて被告の右主張は採用し難い。

次に本案について、原告がその主張の頃より被告議会の議員であつたこと、被告議会が原告主張の日地方自治法第一三四条平福町議会会議規則第三八条第四〇条により原告を除名する旨の議決をしたこと、会議規則第四〇条第三項第四項が昭和二六年一二月二四日設けられたことは当事者間に争がない。

而して、原告は原告主張の(イ)、(ロ)の事実を以て除名事由としたと主張し、被告議会は右(イ)、(ロ)の事実のみでなく被告主張の(一)乃至(八)の議会内外に亘る各種の事実及び非行を懲罰事由としたものであると抗争するところ、成立に争なき乙第二号証の一、二、同第三号証を総合すると、昭和二七年一月一八日の臨時議会の劈頭、春名朝一外二名の議員より緊急動議として、原告が昭和二六年一二月一三日窃盗容疑で佐用警察署に留置取調べを受けるに至り、次いで事件を竜野区検察庁に送致され、昭和二七年一月七日起訴猶予となつたが、容疑に価する事実の否定し得ないこと、昭和二四年度分以降の町税を滞納し、昭和二七年一月一〇日に至り昭和二四年度分を納入したのみで依然滞納を続けていること、右の事実が議会の品位を傷つけ、権威を失墜するものであるとする原告懲罰の議案が提出され、右議案に基き審議の結果、議員一一名中賛成一〇名反対一名の多数で可決されたものであること、その際、原告の詐欺的言動、議員としての職権濫用、一旦辞意を表明しながら前言を飜したことの議会欺瞞等についても発言があつたが、それは審議の経過において附帯的に、科罰の情状として問題とされたに過ぎず、懲罰の対象はあくまで議案記載の前記二点であることを認めることができる。而して証人大谷大輔、同吉田春済の各証言、被告代表者船曳殖本人の供述中、右認定に牴触する部分は前記証拠に照らしたやすく措信し難く、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

そこで、被告議会は、果して右の事実を懲罰の対象となし得るかどうかを判断する。

思うに、普通地方公共団体の議会が本来議決機関であること及び地方自治法の規定の趣旨よりすると、議会の懲罰は会議の円滑なる運営のための秩序維持を眼目とするものと云うべく、従つてその懲罰の対象は議場又は議会内における議員の言動(作為又は不作為)か、少くとも会議の運営に直接密接に関係する議場外の行為に限るべきものと解するを相当とする。蓋し、夫れ以外の議員の言動は、たとえ、それが議員の地位を利用しての非行であり、延いては議会の権威を傷つけるものであるとしても、すべて選挙民の判定(例えばリコール等)に委ぬべきものであるからである。

而して、原告に関する前記二事実は共に全く私生活上の事項に属し、会議の運営に直接関係なきこと明かであるから、議会の懲罰の対象となり得ないものと認める外はない。

さすれば、懲罰し得ない右事実を対象として為された被告議会の本件懲罰の議決は、この点において、すでにその違法なること明かであり、到底取消しを免れない。

仍て、被告議会の本件懲罰の議決の取消しを求める原告の請求は、爾余の点につき判断を進めるまでもなく、理由ありとして認容すべく、民事訴訟法第八九条を適用の上、主文の通り判決する。

(裁判官 古川静夫 西村哲夫 坂上弘)

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